保育士は、未来ある子供たちを育てる重要な役割を担っています。幼い子供たちを育てる仕事はとてもやりがいがある一方で、心身共にハードなこともあり、保育士たちは自分の命を削りながら仕事をしていると言われています。
そういうことも一因なのか、保育士の数は年々減少していっているのではないかと言われています。待機児童があまりに多く、仕事に出なければならない子育て世代の悲鳴が各メディアから聞こえてきており、その実態が連日テレビなどでも多く取り沙汰されたり、インターネットでも多くの意見が交わされたりしています。
しかし、本当に保育士の数は減っていっているのでしょうか。今回は、保育士不足の背景に迫るべく、実際に保育士が減っているかどうかを実際のデータを元に紹介します。
ここ5年分の保育士における有効求職数と有効求人数、就職件数を比較してみると、保育士の数は増えています。
しかし、求人数に対して求職数が減っているために、就職件数が横ばいだったのに対して、求人倍率が平成23年には1.36倍だったものが平成27年には約2倍にまで増えていました。これは全国平均で東京都の場合は5倍強にも上っていました。
有効求職数については毎年4月のデータで比較すると、平成23年と平成24年はおよそ28,000、平成25年と平成26年は26,000ほどです。平成27年は24,000ほどでしたが、それに比べて平成24年には有効求職数よりも少なかったはずの有効求人数が有効求職数を上回っていました。保育士の数が減っているのではなく、資格を取っても実際に職に就く人が半数以下で、そのために職を求める人よりも求人の方が多いという現状が保育士不足に繋がっているようです。そして、結局は資格だけ持っているという潜在保育士が増えてきていることが窺えます。
やりがいがあり、明確な目標を持って保育士の資格を取ったにも関わらず、就職の際に色々調べてみると、給与や勤務時間などの問題があり、特にこれから結婚・子育てが待っている世代には仕事との両立は難しいと判断して、潜在保育士になってしまう場合も多いそうです。
加えて、就職件数に大きな違いが見られないことから、何らかの対策がない限り、今後も有効求人倍率は増えていくことが予想されます。
全国平均に比べて、東京都の保育士不足は深刻です。過去5年のデータから有効求職数は2,000前後と横ばいでしたが、有効求人数が平成24年の3.27倍から平成27年の5.39倍に膨れ上がっています。しかし、そんな実態があるにも関わらず、就職件数は変わりません。職はあるのに、その職に就きたいという人が増えないので、深刻な状況が垣間見えます。
また、平成26年及び平成27年における各都道府県の有効求人倍率のデータを比較してみると、多くの都道府県で有効求人倍率が増えていることが分かります。
平成27年の時点で有効求人倍率が1倍を切っているのは群馬県、山梨県、山口県、鹿児島県の4県のみでした。保育士不足を踏まえても新規求職申込み数を増やしている都道府県は少なく、全国平均でも300件弱の減少が見られました。そんな状況下でも有効求人倍率が増える一方だというのは、やはり実際職に就く保育士の数が減っているということに繋がるようです。
平成28年3月には、野党5党が保育士の処遇改善案を打ち立て、衆議院に提出しました。その内容は保育士の給与を5万円引き上げるというものでした。しかし、保育士不足の原因は給与面だけの問題ではないため、今後も将来的に保育士になりたいという人のフォローやさらなる処遇改善をしていくこと、行政や保育士の周りの人々が意識的に援助していくという姿勢が今後はさらに必要なのかもしれません。
厚生労働省「職業安定業務統計」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000057759.pdf