公立保育園を廃止し、設置運営主体を民間業者に変更する公立保育園の民営化。全国各地の自治体で進められつつある公立保育園の民営化には、メリットとデメリットの両方が存在する状態です。整備が進められている最中の制度であるからこそ、メリットとデメリットが錯綜し、さらには誤解を抱いてしまっている保護者もいます。保育業界で働く上で避けては通れない公立保育園の民営化問題について深く理解するために、その背景やメリット、問題点を整理してご紹介します。
そもそも公立保育園の民営化は、国レベルでの官業民営化の流れに沿った動きです。市区町村レベルで推進されており、各自治体は長期的な計画のもと、公立保育園の民営化を促進しようとしています。民営化の方法としては、民間業者に施設を譲渡・貸与する移管や、設置者は行政のままで運営主体を民間に譲る委託などがあります。民営化の背景としてまず挙げられるのは、国家の財政難です。女性の社会進出に伴い、保育園のニーズは上昇の一途ですが、少子高齢化社会の影響により保育園に多くの予算を割けない現状があります。これを民営化によって解決しようというのが、行政の狙いです。また両親の勤務形態の多様化により、早朝や夜間、休日保育など、変則的なシフトへのニーズも出てきました。公立ではなかなか対応しきれないこれらのニーズを満たし、地域密着の保育園を実現するため、民間業者に期待が寄せられていることも背景にあります。
民間業者が設置運営することの問題点として懸念されているのが、営利目的が第一となる点です。公立保育園は、設置運営主体が自治体か社会福祉法人であり、非営利で地域の保育を行ってきました。しかし民間業者の場合、利益を得て事業を継続・拡大することが重要になるため、経営状況によっては保育士の削減や質のブレが生じる可能性があります。また民営化にあたってスタッフが大幅に入れ替わることが多いため、これまで利用していた保護者の意に沿わない方針や対応に転換する場合もあるでしょう。このような転換は特に、通っている子どもたちに大きく影響するため、保護者の懸念材料となっているのです。さらに教育方針によっては、制服や備品、教材など、家庭の経済的負担が増加する可能性もあります。自治体によっては、民営化の賛否をめぐって既に保護者と自治体職員との間でトラブルが生じており、訴訟に発展しているケースも報告されています。各地で推進されている民営化ですが、保護者の支持を得るためには課題が山積している状態といえるでしょう。
移行が始まったばかりの過渡期であるからこそ、問題点やトラブルが注目されがちです。しかし民営化によってもたらされるメリットももちろんあります。自治体にとっては運営費の負担の軽減や、公務員数の抑制が見込め、行政のスマート化に貢献します。また保護者にとっても、早朝保育や延長保育、休日保育、乳児保育などの家庭環境に応じたきめ細やかなサービスや、送迎やオリジナリティのある教育・行事といったさらなる質の向上を期待できるほか、保育園数や定員の増加により待機児童となるリスクを低減できる可能性もあるのです。また、公立保育園と異なり施設ごとに意思決定できるため、判断が迅速であり、様々なトラブルに対する臨機応変な対応が見込まれます。さらに、コスト削減の一環としてスタッフが入れ替わるというデメリットが挙げられていましたが、逆に、若いスタッフによって、職場が活性化して新たな風が吹き込まれるというようなメリットも考えられます。