子供同士でケンカが始まったら、大人はついつい止めに入りたくなってしまいます。それは、子供のケンカを大人目線で判断してしまっているからです。争いはよくないという想いが強すぎるのです。しかし、子供には子供の世界があり、大人と同じにように扱っては教育上よくない場合があります。そこで、子供がケンカを始めたら保育士の立場としてはどうすればよいのかをまとめてみました。
大人の世界でもお互いの主張がぶつかり合うことはよくあります。しかし大抵の場合は、どうすればその場を収められるかを経験上知っており、上手い具合に争いを回避するものです。子供は幼い時から徐々にその方法を学んでいきます。ただ、最初は言葉をうまく扱えないので、体のぶつかりあいになります。おもちゃの取り合いなどはよく見かける光景です。3歳ぐらいからは、同じ年頃の子どもたちが集まって遊ぶ楽しさを覚えて社会性を身につけていきますが、思い通りにならないことに腹を立てて言い争いになることもあります。それらひとつひとつが貴重な体験であり、自分の主張が通らない時にはどう折り合いをつければよいのかを学んでいくのです。それをすぐに大人が間に入ったのでは、大人の前だけ良い顔をするすべを覚えたり、解決を大人に頼りきったりしてしまう可能性が大です。そうなっては、対等な人間関係を築く学習が困難になってしまいます。それを理解し、子供の貴重な成長のチャンスを奪わないようにするのが大切です。
それでは、実際に目の前で子供たちが喧嘩を始めたらどうすればよいでしょうか?まずは見守ることです。子供たちがどのようなやり取りをしているかをよく観察しましょう。そうすると、子供たちがどういう道筋で解決を図ろうとしているのかが見えてきます。それを通して、「自分の気持ちを伝える」、「相手の気持ちを推し量る」、「粘り強く解決の方法を模索する」といった、人間関係を築く上での重要な能力がどこまで成長しているかが分かります。そして、そのまま子供たちだけで解決に至れば自分の力で解決ができたのだという自信にもつながりますが、お互い一歩も引かない平行線状態になれば助け船が必要です。ただし、ここで「○○ちゃんが悪いでしょ。××ちゃんにゴンナサイって言いなさい」などと一方的に断罪してはいけません。子供のケンカに大人の判断を押し付けてはどうしても不満が残り、大人に対して不信感を抱いてしまいます。「そのオモチャは××ちゃんが使ってなかったっけ?」とか「どうやったら、ひとつのおもちゃでふたりとも遊べるのかなあ」などというふうにヒントを出すだけにとどめましょう。ここでケンカを最初から観察していたのが役に立ってきます。ケンカの原因を分からずに適当なアドバイスをしたのでは場はよけいに混乱します。子供も自分が有利になるように嘘をつくかもしれません。しかし、すべてを見ていて嘘は通じない事実を子供たちが理解すれば、大人の誘導によって言い争いは解決の方向へと向かうでしょう。それは同時に、大人はきちんと物事を見てくれているのだという子供たちの信頼感にもつながります。もし、たまたまケンカの現場に居合わせなくて後から子供も事情を聞く場合は、両者から平等に話を聞くのが重要なポイントです。一方の話だけに耳を傾けて、もう一方に対して「なんで、そんなことをしちゃったの?」などという言い方をしてしまうと子供は精神的に追い詰められてしまいます。まずは子供たちが思ったことを言いやすい環境を整えあげましょう。
子供が互いに妥協点を見出して解決を図った後は、必ずほめてあげてください。この時、どっちが悪かったかは関係ありません。両者を平等にほめるのです。子供の成長を考えるならば、いさかいを起こしたことよりも、それを解決できた事実の方が大切です。また、褒められることで、子供は良き行いとは何かについて学びます。「自分の気持ちを○○ちゃんに言えてよかったね」とか「××ちゃんの気持ちを分かってあげて、えらかったね」という具合に成長したポイントをほめてあげれば大きな自信にもなります。しかしもし、子供たちがうまく解決に至らなかった場合は、互いの気持ちによりそった言葉をかけてあげましょう。「おもちゃを貸してもらえなくて悲しかったね」、「おもちゃを取られて悔しかったね」とわだかまった気持ちに理解を示すと次第に子供たちも落ち着いてきます。同時に、それが相手の気持ちを察するきっかけになり、解決の糸口にもつながります。
確かに、子供同士のケンカは互いの成長を促すもので基本は見守るべきものですが、中にはすぐに止めないといけないケースがあります。例えば、激しい掴み合いや殴り合い、あるいは相手に噛みついている場合などは、ケガを追わせる危険があるので即座に止めなければなりません。一方的に責められて子供が助けを求めている、ひとりが複数に取り囲まれているなどといった場合も子供同士で解決できる状況ではないので間に入るべきです。それに、相手の人格を否定する暴言を吐いた場合も、話し合い以前に子供の心を傷つけてしまう恐れがあるのですぐに止める必要があります。また、それらのケースでもきちんと両者の話を平等に聞いた上で、暴力や暴言に至った原因を突き止め、子供たちの中にわだかまった感情を取り除いてあげる必要があります。しかし、そうは言うものの、どの時点でケンカに介入するかを推し量るのはなかなか難しいものです。したがって、日頃から子供たちをよく観察し、そのタイミングを見極める力を身につけるのも保育士にとって大切な仕事だと言えるでしょう